今回紹介する小説は「漁港の肉子ちゃん」です。港町で母娘と活き活きと生きる姿が、現代を生きる我々に勇気を与えてくれます。
さんまさんプロデュースで映画化し、人間とはこういうものだという彼の価値観を表現されています。
少しでも気になった方は、ぜひ手に取ってみてください!
「漁港の肉子ちゃん」をサクッと紹介
漁港のある小さな町に暮らす、小学生のキクリンの物語です。彼女は母の肉子ちゃんと一緒に暮らしており、事情がありこの街にたどり着いたといいます。
キクリンの周りで起こる人間関係の問題と、肉子ちゃんの、肉子ちゃん全開な生き模様を当たり障りのないよう引き目で見ているキクリンですが、本当は、皆に嫌われるのを恐れているのでした。「早く大人になりたい。そうすればこんな狭い世界で悩む必要などなくなるのに。」と、彼女は”大人の世界”に憧れています。
大人とはいったい何なのか? ちゃんとした大人などいるのだろうか…? 町の人の暖かさに包まれながら、彼女が成長していく物語となっています。
明石家さんまさんプロデュースで映画化
明石家さんまさんは原作の西加奈子さんの直木賞作品「サラバ! 」を手に取ったことから、西さんのファンになったといいます。自身の経験から”肉子ちゃんの人間らしさ”に共感したことから映画化を熱望して実現されました。
さんまさんはこの映画を通して、人間とはこういうものだという彼の価値観を表現しているとコメントしています。
物語のすべてを映しているわけではないですが、原作が彼の目にどう映ったか? を伺える作品となっているため、気になる人には必見です!
2021年6月アニメ映画「漁港の肉子ちゃん」公開
2021年6月にアニメ映画として、この作品が公開されました。制作はクリエーター集団のSTUDIO4℃が手掛け、監督は「ドラえもん」の制作を長く担当した他、「怪獣の子供」なども手掛けた渡辺歩さんがされています。
さんまさんがスタッフ陣に伝えた面白いものを全力で作るという思いに応えるように、総勢500名に及ぶスタッフ達が真剣に制作に取り組んだ力作となっているようです。
豪華キャスト人でファンを魅了!
強い想いの下制作が進められたこの作品ですが、キャスト陣もこだわりの人選だったようです。
キクリンは長年さんまさんと家族ぐるみの付き合いがあり、フルート演奏家の傍ら声優スクールにも通っていたというCocomiさんが担当されました。肉子ちゃんは、しぶとく生命力のある役もこなせ、さんまさんの元妻でもある大竹しのぶさんが演じられています。
その他吉岡里帆さんや滝沢カレンさんなど、豪華キャストが息を吹き込みました。
NHKでも放送されていた「漁港の肉子ちゃん」
公開に先駆けて、各テレビ局で特別番組が放送されました。特別番組では声優の花江夏樹さんとCocomiさんのメイキング映像も公開されたようです。
また2022年9月には、NHKのEテレで地上波初公開としてテレビ放送されました。個人的な見解としては、この作品では大人に語りかける表現が多く見られますが、絵のタッチやコミカルな動きは子供も楽しめる作品だと感じます。
そういった点から親子でみられるようにEテレで報道がされたのかもしれませんね。
気持ち悪い・ひどいと酷評のレビュー
ゴミ映画
原作が好きだから見ましたが、見るだけ無駄でした。明石家のエゴが強く出すぎていて、本当につまらない映像化になり残念です。
時間がもったいなかった
アニメ映画が好きなので鑑賞。ですが期待はずれすぎて、時間がもったいなかったです。
肉子ちゃんのセリフが聞き取りづらく、途中から飽きちゃいました。
面白いだろうと思って入れているネタ?もただただ下品に感じます。共感性羞恥というか見ていて恥ずかしくなったり、ふくよかな体型の方への軽視も感じてしまいました。
さんまさん主観の映画となっていることに違和感を覚えた人も多く、アニメ映画としての評価はあまり高いとはいえません。
また原作に対しても、「太っている人への差別だ」という声や、「肉子ちゃんの経歴がかわいそうで感動できない」といった声もあるようです。
しかし、現実であれば目をつむりたくなるようなことがありながらも、それらを吹き飛ばす肉子ちゃんの強さと愛すべきキャラクターたちの生きていく姿に胸を打たれる方も多く、ファンが多いことも事実です。
【おすすめ】心がほっこりするエピソード5選
①肉子ちゃんのひとこと
キクりんの学校のクラスで仲間割れが起きてしまいます。その最中、キクりんは友達に遊びに誘われるのですが、それが悪口大会になりそうでなんだか気が向かないのでした。
肉子ちゃんに行きたくない事を相談すると、肉子ちゃんが「行かんかったらええやんっ! 」とキクりんにいうのです。「風邪ひいたとか何とか、言うたらええねん! 」嘘も方便とはまさにこのこと。
天真爛漫でありながらも、思い悩んだ時にほしい言葉をかけてくれる繊細さも兼ね備えている肉子ちゃん。
人間関係を真剣に考えすぎて辛いと感じる人にも、そんな必要はないと思わせてくれるシーンです。
②憧れの大人マキさんの格好悪いところを見た瞬間
キクりんの町には鍵屋のマキさんがいます。彼女は東京から出戻りしてきたのですが、キクりんはそんな彼女のクールさと、東京に長く住んでいた経歴に憧れを抱きます。ある日キクりんがマキさんの店を訪れ、東京での話をします。
「自己満足でお洒落なことして〜略〜 東京なんて、まともな人間の住むところじゃないよ」という、マキさんの劣等感とも感じられる意外な言葉にキクりんは初めて期待はずれでかっこ悪い大人だったと落胆するのです。
では、かっこいい大人とは何なのでしょう? 生きていく上で皆かっこ悪いところがあるのだと気づかされるシーンです。
③普通とは…?
「普通が一番ええのんやでっ! 」という肉子ちゃんに、キクりんは何が普通なのかと問います。
キクりんは自分の生活はそんな平凡ではないと思いますが、続けて肉子ちゃんは「キクりんとうちの生活は、ご飯食べて、うんこして、勉強して、働いて、お風呂に入って、寝てるやろっ? 」と言いました。
幸せに気づくことが幸せへの道なのかもしれないと思わせてくれる1節です。
④肉子ちゃんを肉子ちゃんとして、自分の感情を自分のものとして見つめ始めるキクりん
肉子ちゃんは小さい頃お祖母さんに育てられ、お祖母さんが亡くなったときはとても悲しかったと話します。でもお祖母さんは生前、亡くなっても肉子ちゃんの近くにいるから、と肉子ちゃんに言い旅立ったため、悲しみから立ち直れたのだそうです。
話の流れで肉子ちゃんは「キクりんおるから、ぜーんぜん、さみしくないわっ! 」「キクりんおってくれて、よーかったっ! 」と底抜けの明るさで言うのでした。
この屈託のない愛情を受け、キクりんは徐々に感情を表せられるようになっていくのでした。
⑤肉子ちゃんの、やっぱり肉子ちゃんな姿にほっこりするラストシーン
終盤、キクりんと肉子ちゃんが家に帰る途中、漁港に寄り道をします。坊主頭はまじめな人。眼鏡をかけているから小説家。
ととっても単純な肉子ちゃんですが、キクりんと訪れた漁港の海を見て「めっちゃ海やなあっ! 」と言うのです。
思わずツッコミを入れるキクりんですが、今までのような冷笑ではなく、確かに、海はめっちゃ海…と自分なりに解釈し始めるのです。
ようやく自意識のしがらみから解放されたキクりんの新しい毎日の始まりとなる、ほっこりするシーンです。
最も伝えたい小説「漁港の肉子ちゃん」のシーン
肉子ちゃんとキクりんは、おなかを壊さないという条件で、焼肉屋サっさんの家を借りて町に住むのですが、物語後半、突然の腹痛がキクりんを襲います。
キクりんはその条件を思い出して迷惑をかけまいと一人で我慢をするのです。結局入院をしたキクりんに、お見舞に来たサっさんがこう言いました。
生きてる限りはな、迷惑かけるんがん、びびってちゃだめら
~中略~
ちゃんとした大人てものも、いねんら。だすけ、おめさんが、いっくら頑張っていい大人になろうとしても、辛え思いや恥しい思いは、絶対に、絶対に、することになる。
恥をかかないよう、迷惑をかけないように、と自意識に囚われるキクりんに、半ば諦めとも言えるこの救いの言葉がかけられます。”大人””自律”の呪縛に悩まされる現代の大人たちにも響くことと思います。このシーンは必見です!
まとめ
いかがでしたでしょうか?
賛否両論はありますが、ベストセラーとなったこの小説は少しでも気になった方にとてもお勧めします! 生きている中で感じる、こうあるべきというしがらみから解放され、思わず笑顔になってしまうような物語となっています。
西加奈子さんの小説には物語に人を引き込んで考えさせる力があります。この作品を機に西さんの小説を手に取ってみてはいかがでしょうか?